TJY WSR2001 参戦日記

Part4 大会2日目-前編
Aug 4 2001

2001年8月4日 7:30 - 秋田県大潟村ソーラースポーツライン


「きた、きた、きた、きたぁ!!」 誰かの叫び声でピットの外に出ると、待ちに待った太陽が雲の隙間から顔を出してきたところだった。電流計の数値が力強く上がっていく。昨晩は小雨が降り続き、夜が明けても空には雲が残っていたが、レース開始30分前になってやっと天候が回復してきた。結局、予報よりはやく前線が通過したために天候の回復が早まったようだ。先ほどダウンロードしたひまわりの画像も、天気が快方に向かっていることを示していた。

しかし、すでにグリッド・インの時間が迫っていた。結局バッテリー残量はほとんど回復させることができずに、25%弱しかない。回復しつつあるとはいえ、空にはまだ薄雲が広がっている。十分な日射が期待できるわけではないので、当面はバッテリー残量を維持しつつ周回数を伸ばしていくしかない。




ピーク発電量を定格の約60%の300Wと見積もってみよう。これで何とか12周。明日は天気がもっと良くなることはわかっているが、さすがにレース終了後の残量を20%以下に減らしてしまうのは、いささか心許ない。あとは同一周回のチーム潟郎・キラキラファイターの動向を見ながらレースを進めることにする。

実は、同一周回にはキラキラだけでなく、育英高専の「Ikuei Neo II」、三菱マテリアルの「SUNチャレンジャー」もいるのだが、この2台はフリークラスの車体だ。今は同一周回でも、天候が良くなれば圧倒的な発電量の差で引き離される可能性が高い。振り回されてペースを乱しては意味がないのでターゲットからははずすことにする。(後に、この弱気な考えが間違っていたことに気づいたのは、レースが終わってからの事だったのだが)

(図)Day2-ピーク300Wで12周した場合のシミュレーション
 

昨日の反省を生かして、今日は「赤パンツ」(低回転版モータ)に変更。

 

レーススタート。
写真をクリックすると動画でご覧いただけます。
(MPEG-4, 100kbytes)

8時42分、同一周回の育英高専が先に戻ってくる。このペースはガメラと同じ12周ペースのようだ。その6分後、キラキラより先に竹内さんの乗るガメラがコントロールラインに姿を現した。読み上げてもらったデータをワークシートに入力する。狙い通り、バッテリーからの持ち出しはほとんどなしで走行している。空模様の方といえば、小さな雲の塊が流れており、その隙間から太陽が顔を出したり隠れたりを繰り返している。


10時24分、3周目終了。2周目、3周目ともに若干充電気味であるが、残量的にはあいかわらず厳しい。このまま12周を狙うか、11周でできる限りオーバータイムを減らすようにするか悩むところだ。ガメラのように搭載バッテリー容量の小さい車体では、天気さえよければ朝夕の充電だけで満充電まで回復してしまう可能性がある。このため、2年前のオーストラリアのレースでは、後半戦でパネルを隠して充電を止めるというもったいないことをしてしまっていた。このまま天気が回復していけば、そういったことも起こりかねないため、今日12周走る可能性も残しておきたい。

 

モータを提供してくださった、ミツバの皆さん。
今度はソーラーカーにも参戦してみては?

 

ガーミンの秘密兵器(??)、遮光メガネ。
面白すぎるため、却下。(本人はマジメです)

11時02分、竹内さんが4周を終えてピットに戻ってくると、待ちかまえていたメンバーが一斉にガメラを取り囲み、ドライバー交代作業を進めていく。瞬く間にセカンドの池上さんに交代し、ガメラは再びコースに戻っていた。時計を見ると、ピット作業時間はついに2分をきっていた。

このメンバーでWSRに出場するのももう4回目。最初は手間取って4分近くかかっていたピット作業も、ずいぶんとてきぱき進められるようになった。普段はバラバラだが、いざとなったら恐ろしく手際の良いメンバーの連携と、細かな車体の熟成の成果である。この4年間でガメラ自体も、ヒンジをつけてカウルを開けた時は片手でも支えられるようにしていたり、以前はガムテープを使って固定していたアッパーカウルも、テープを使わずに確実に止められるようになっていたりと、性能とは直接関係のないところで改良が行われている。こういった陰ながらの改良がメンテナンス性の向上につながっている。



ガメラを引き継いだ池上さんは、12周ペースで順調に走行を開始した。しかし、潟郎のキラキラファイターも2周目以降、ペースを上げてガメラとほぼ同じペースで周回を続けている。なんとかしてかわさなければ、初日のオーバータイム差の分でガメラが負けてしまう。しかし、現状ではこれ以上ペースを上げることができないため、キラキラの動向を見守るしかない。少なくとも、完全な晴天でなければ少ないエネルギーでも効率よく走ることのできるガメラにも勝算があるのだ。


池上さんは順調に周回を重ねていく。しかし思ったより雲が多く、消費量と発電量がとんとんの状態で走行を続けていく。本来ならこの時間帯は充電しながら走ってほしいところなのだが。

昨日の午後になって悩まされたトラッカーの停止は、制御用電源をメインバッテリーからとるように変更したことで今朝のうちに回避してあるので、今日はその心配もない。しかし、今日は朝からバッテリー残量を維持するために太陽光の力だけで走っているため、日射が弱まる午後以降、一気にバッテリー残量が減ってしまう。マネージメント用のワークシートも、このペースで走行を続けるとレース終了前にバッテリー残量が空になってしまうことを示していた。

(図)Day2-13時06分現在のバッテリー残量

「しかし・・・」と僕は思った。ガメラの走行の様子を見る限り、そんなにバッテリー残量が減ってきているようには見えないし、ドライバーが伝えてくるバッテリー電圧を調べてもそんなに落ちてきていない。バッテリー残量がそんなに少ないように思えないのだ。ガメラが使用している鉛バッテリーでも、リチウムイオン電池ほど電圧降下は大きくないが、電圧である程度の残量を把握することができる。過去にとっていた放電曲線のデータと現在の電圧を比較しても、まだ4割くらいは残しているはずだ。

そこへ、ラップ計測をしていたSさんが声をかけてきた。

「バッテリーの初期容量、いくらで計算してる?」

「カタログ通り、24Ahですけど。」

「こいつの場合は新品だと実際の容量はカタログ値より大きいらしいんだよ。30Ahくらいだったかな。」

実は、2年前にSさんがガメラのマネージメントを担当したときにも、やはり電圧と積算計の残量が一致していなかったのだが、僕はそのときの話をすっかり忘れていた。いわれたとおり、バッテリーの初期容量を30Ahにして計算し直してみると、なるほど、積算計による残量は約40%となり、電圧とバッチリ一致した。これならば、12周走っても問題なさそうである。

(図)Day2-初期容量補正後のバッテリー残量
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