TJY WSR2001 参戦日記

Part3 大会初日-後編
Aug 3 2001

9時32分、青山学院、OSU、玉川学園のトップ集団が曇り空に負けないスピードで1周を終えて戻ってくる。その約8分後、池上さんの駆るガメラが1周を終えて戻ってきた。パレード走行のロス分を引けば予定通りのペースだ。空には若干の薄日が差してきたが晴天にはほど遠い。しかも悪いことに風が強くなってきた。曇天の上に風が強いと、そのぶん対気速度が上がるので消費がかさんでしまう。

スタート直前に目標周回数を変更してしまったので、もう一度シミュレーションをやり直してみる。周回数を11周に落として、ピーク発電を300Wから200Wに落としてみる。計算結果はゴール時の残量が40%、と示している。だが、天候がさらに悪くなる可能性も高いので油断はできない。




ここでエントリーリストをチェックしてみよう。ストッククラスでの優勝を目指すため、マークすべきチームを決めておく。今回ストッククラスで出場しているチームで、昨年の大会でガメラの上位に位置していたチーム、順位が近かったチームをピックアップする。No52・TEAM潟郎の「キラキラファイター」、No18・秋田大学の「98 ASCA」、No12・芦屋大学の「Sky Ace II」、No14・ポリテクカレッジ滋賀の「ポリテクスピリット」、No67・若松第一高等学校の「若一号」、とこんなところだろうか。これらのチームのラップに注意しつつ、レースを進めていくことにする。


その後もガメラは順調に周回を重ねるが、雲は厚くなっていくばかり。本来ならば最も発電を期待できる時間帯にさしかかるというのに。ただ、風は落ち着いてきたようで消費もいくぶん下がっている。今のところガメラは予定通りストッククラス1位をキープ。それを追うTEAM潟郎の「キラキラ」は1分57秒のビハインドだ。

12時15分、予定通り池上さんが5周の周回を終えてピットイン。セカンドドライバーの海ちゃんにガメラを引き渡す。日射がほとんどないため、バッテリー残量はほとんど直線的に低下している。このペースでレースを進めると、初日で残量が2割を切ってしまう計算だ。しかも、予報では明日の天気も日射があまり望めない。目標をさらに10周に落としてペースダウンを指示する。

(図)Day1-12時15分現在のバッテリー残量

ガメラの赤い弟、東海大SolspiritsのTrysolをキラキラファイターが追い越していく。Trysolはガメラを参考に型から自分たちで起こして作られた車体。スパッツもついてますますガメラそっくりだ。

マークしているチームの中で、唯一キラキラファイターのみが11周ペースを維持している。発電量の大きなマシンに1周差をつけられてしまうと、晴れたときに逆転するのはかなり難しくなってくる。しかし、僕らがよく知る潟郎メンバーの性格を考えると、バッテリー残量を残していない可能性もある。ここは無理せずに10周ペースを維持することにする。

 

ちびっ子たちがTJYピットを訪問。
若松:「ほら、これがソーラーカーのモーターだよ」

 

一仕事終えて・・・
ZZZ...

午後になると空はますます暗くなっていくばかり。携帯から伝えられる海ちゃんからの連絡では、コースの所々で今にも雨が降り出しそうとのことだ。1周が31kmと、とんでもなく長い大潟村のコースでは、コースの各所で天気が違っていることがしばしばある。ピット周囲の天気だけで判断できないところも難しいところだ。日射はほとんどゼロ。バッテリー残量はほとんど直線的に降下している。仕方ないのでワークシートの日射予想に「0」を入力する。初日からこんなに寂しい展開のレースは初めてだ。


15時31分、海ちゃんが4周を終えてピットに戻り、本日最終ドライバーの竹内さんにガメラを渡す。

WSRの戦略では「オーバータイム」というルールが鍵となる。初日、2日目は16時、3日は15時以降に新たな周回に入ることはできない。つまり、その時間を超えて最初にコントロールラインを通過したときがゴールとなる。ただし、超えた時間は「オーバータイム」として加算される。そして、同一周回ならばオーバータイムの少ない方が勝ちとなるのだ。走行時間を長く取るには16時ギリギリに最終ラップに入ればよいが、その分オーバータイムが増えてしまう。ここは周回数を落とす分、なるべく早めにゴールしてオーバータイムを出さない作戦を取ることにした。




「あ~、また発電出てないねぇ・・・」隣でガメラの詳細走行データを解析していた堺さんがうめいた。TJYではピットインの時に、計測システムのメモリカードを交換して30秒毎に計測された詳細な走行データを解析するようにしている。堺さんのPCの画面を覗くと、とぎれとぎれになった発電グラフが表示されていた。昨年から調子の悪いトラッカーがまた停止したようだ。

(図)Day1-(泣きたくなるような)発電グラフ

グラフを見ると、午後になってからほとんど発電がゼロになっているところが所々ある。いくらこの天候でも完全にゼロになるのはおかしい。トラッカーの出力が出ていないと考えた方が自然だ。この手の現象は、1周毎にドライバーから報告される積算値を見ているだけではなかなか捕らえにくいのだ。

データを解析していた堺さんが顔を上げた。「パネルの第一系統って、確かガメラの左前だったよね? トラッカーがダウンしているのは復路の北の橋から南の橋の間なんだよ。午後になると、復路のこの区間ではガメラの左前に光が当たらなくなるから、それでトラッカーの電源が落ちたのかな?」

ガメラに積んでいる6台のトラッカーの制御用電源は、第一系統の太陽電池から直接供給している。第一系統の発電量が落ちてくると、トラッカーに電源を供給するDC-DCコンバータの入力電圧が落ちて、DC-DCコンバータが停止してしまう。なるほど、そう考えるとつじつまが合う。原因が分かっても、残りは1周。今は対処のしようがないし、シミュレーションでは発電をないものとして考えているから、今はこのままゴールしてもらうしかない。



16時。ピットロードが閉鎖される。11周ペースで走ってきたキラキラは、わずか10数秒の差で時間に間に合わずに11周目に間に合わず、レース終了。これでガメラと同一周回だ。そして16時27分。予定より少しだけ遅く、竹内さんの乗るガメラがOSUを引き連れて帰ってきた。これでキラキラから27分のビハインド。このオーバータイムをひっくり返せばストッククラスを相手に勝ったことになる。キラキラ以外で同一周回のチームは、育英高専の Ikuei Neo II、三菱マテリアル・Sunチャレンジャー。どちらもWSC出場経験のある(ガメラもそうだが・・・)強豪だ。

バッテリー残量は約20%。夕方の発電はもちろんゼロ。それどころか、レース終了を待っていたかのように雨がぱらつきはじめている。天気図を見ると、ちょうど秋田県に低気圧の前線が延びてきているところだった。低気圧の移動が遅ければ、明日の天気も思わしくなさそうだ・・・。

(図)Day1-16時23分現在のバッテリー残量
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