TJY WSR2001 参戦日記

Part2 大会初日-前編
Aug 3 2001

2001年8月3日 5:00 - 秋田県大潟村ソーラースポーツライン


ットの中で目を覚ます。昨晩は雨音を聴きながら眠りについたが、予想外に外は晴れていた。程なくして東の空から太陽が顔をのぞかせる。さっそくインターネットに接続して気象状況を調べてみる。1時間毎に公開される気象衛星ひまわりの画像では、確かに大潟村上空に雲は写っていない。西側の空を見てもさほど雲はないようだ。しかし、予報はあいかわらずの雨である。

今年の目標は480Wクラスの優勝はもちろん、1ランク上のストッククラスでの優勝である。さらにあわよくばフリークラスをいくつか抜いて総合で10位以内に入れれば言うことなしである。ソーラーカーレースは発電量大きなマシンが勝つのではなく、誰よりも上手にエネルギーを使ったマシンが勝つのである。そう考えればガメラにだって勝算はあるはずだ。




昨年の結果を見てみると、初日は晴れのち曇りで11周走っている。ミツバモータの採用でさらに消費の減ったガメラなら、昨年と似たような天気で12周、悪くても11周はキープできるのではないか。

ここでガメラの実力を確認しておこう。横軸がWSRでコースを1周するときの平均速度、縦軸が平均消費電力だ。グラフが下に下がれば下がるほど、少ない電力でより速く走行できることを表している。自動車で言えば「燃費がよい」ということになる。過去3回の大会で測定したデータと、先日のテスト走行の結果から予測した線を比べると、明らかに消費は少なくなっている。最初に出場した1998年に比べれば、今のガメラは同じ速度でも半分近い消費電力で走ることができるのだ。

(図)ガメラのP-Vカーブ

週間予報では天気はレース後半に回復するようである。上のクラスのマシンと勝負するなら、晴れるとさすがに発電量の差で勝ち目がない。天気の悪いときにいかにペースを落とさずに走れるかが重要なのだ。11周か12周か、悩むところだ。

レース開始に向けての最終準備の間も、天気が崩れる兆候はあまり見えない。ひょっとしたら天気が崩れるのはもう少し先になるのではないか。そんな考えと過去の大会の記録からピーク発電量を300Wと見積もってみる。定格出力は480Wだから6割ちょっとの発電と見積もったわけだが、昨年のレースでパネルの一部を傷つけてしまったのとトラッカーの不調から、ただでさえ少ないガメラの発電量は定格より落ちてしまっている。これでもどちらかといえば強気の見積もりである。

値をワークシートに叩き込んでグラフを出してみよう。薄い色の線はシミュレーション結果であることを示している。青はバッテリー残量、ピンク色は発電量だ。発電は大雑把に南中時刻をピークとするサインカーブを描くようにして予測する。目標周回数からラップタイムを計算すると、1周あたりの平均時速がはじき出される。これと、先ほどのP-Vカーブから消費電力を求めてバッテリーがどのように消費されるか計算できる。

目標周回数を12周とすると、シミュレーションではレース終了時のバッテリー残量は4割弱と出た。実際にはこんなに綺麗に発電しないだろうから、残量はもっと少なめになるはずだ。

(図)Day1-ピーク300Wで12周した場合のシミュレーション

グリッドイン30分前、整備を進めていた池上さんが突然モータの資料を取りだして調べ始めた。実は、今回TJYがミツバさんから預かったモータは2台ある。モータは回転数によって効率が変化し、最も効率が良くなるポイントは決まっている。つまり、もっとも効率良く走れる速度が決まっているのだ。もちろん、この速度で巡航することが望ましい。

当初のモータはこのポイントがガメラには速すぎたため、回転数を落としてより遅い速度で高効率を得られるものを用意してもらったのだ。従来の高回転型は外装が白、新しい低回転型は外装が赤だったため、いささか品がないが、僕らは「赤パンツ」、「白パンツ」と呼んでいた。天候が予想よりよければペースは上がるため、高回転型の「白パンツ」の方が効率を上げることができる。

「よーし、モータを換えよう!」

僕らは大急ぎで作業に取りかかった。

 

無事にモータの換装を済ませてグリッドイン。レース中、最も緊張する時間だ。

 

手前は3年ぶりに復活した三菱マテリアル・SUNチャレンジャー。WorldSolarChallenge 96では総合4位の強豪だ。奧にあるガメラはよけいに小さく見える。

スターティング・グリッドに並んで最終チェックを行う。気がつけば、空には僕らの努力を裏切るかのように雲が立ちこめ始めていた。西の空に目をやると一面の雲。予報通りなのだが、しばらく晴れる気配はなさそうだ。さすがにこの天候で12周はかなりの冒険になるので、スタート直前になって目標を11周に落とすことにした。スタートドライバーの池上さんとペースを確認してガメラを離れる。もうすぐスタートだ。

カウントダウンが始まり聞き慣れた合図の音あと、しばらくしてガメラはゆっくりと走り出す。WSRのスタートは、ピットロードを抜けるまでがパレード走行のようなものなので、端から見ればいささか緊張感の無いように見える。しかし、当の本人たちにとってはマシンがコースの向こうに消えてゆくまで緊張を解くことができないのだ。僕は、いつもと同じようにガメラが目の前を走り去ってゆくのを見届けてからピットに戻った。

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