TJY WSR2002 参戦日記

Part4 決戦、vs SUNチャレンジャー (大会最終日)
Aug 04 2002

2002年8月4日 5:00 - ジャンク・ピット


半から降り出した雨は、今もピットを激しく叩いていた。昨日から近づいていた寒冷前線が今まさに通過しようとしている。ときおり吹く強い風がテントをめくる。とてもレースを行える状況ではない。会場では、4年前と同じように、スタートの延期がアナウンスされていた。

雨が一度止み、風向きが変わる。そしてまた激しい土砂降り。前線が通過した証拠だ。しばらく待機していると、急速に雲が流れてその合間から太陽が顔を覗かせはじめた。会場アナウンスの小林さんが、レース開始は11時と伝える。まだ2時間近くある。にわかに会場の動きが慌ただしくなり、各チームは一斉にマシンを外に出して充電を開始した。


写真をクリックすると動画でご覧いただけます。
(MPEG-4, 83kbytes)

約2時間の充電で、ガメラのバッテリーは80%近くまで回復した。グリッドにガメラを並べている間にも、どんどん充電されていく。他のチームはどの程度、回復しているのだろうか。慌ただしい準備に追われて、目標周回数を決める暇すらなかったが、この状況ではできる限り飛ばすしかない。風も止んでいるので、迷わずフルスロットル走行を若松さんに指示する。

午前11時。最終日のレースが始まった。僕は大急ぎでピットに戻り、マネージメントのワークシートを開き、計算を始めた。レース時間は3時間短くなっているので5時間。その間に残る全エネルギーを使って三菱マテリアルを振り切らなければならない。計算によると、30分前半台のラップを叩いて8周すれば、ほぼエネルギーを使い切るはずだ。

心配なのはリチウムイオン電池の底が見えないこと。電池の特性上、残量が残り少なくなると一気に電圧が落ちるので、スピードが出なくなってしまう。この点に気をつけないと、最後の最後で逆転されてしまうことになりかねないのだが、実測データが無い以上、行けるところまで行くしかない。





写真をクリックすると動画でご覧いただけます。
(MPEG-4, 113kbytes)

若松さんは70km/hを超える巡航速度で周回を重ねる。2周目には今までの記録を上回る最速ラップ、31分13秒を記録した。そのまま5周をまわり、ラストドライバー・海ちゃんにガメラを渡す。日射は良好だが、このスピードではバッテリーは減っていく一方。徐々に電圧が下がってくる。

7周目、電圧の低下に伴い、ついに巡航速度が70km/hを割った。三菱マテリアルはまだガメラの後をピッタリとつけている。このまま逃げ切れればオーバータイム差で勝つことができる。進角を使用してなんとかスピードを維持してもらうようにする。

7周目を終えて先にコントロールラインを通過したのは三菱マテリアルだった。数分遅れて海ちゃんの乗るガメラが通過する。まだ大丈夫、13分以上の差をつけられなければ勝てる。電圧は52.5Vまで落ちている。この1周でほぼ使い切るはずだが、持つだろうか。

14時10分、そろそろ折り返してこちらへ向かってきているはず。電圧が気になるので連絡を取ってみる。

電話はすぐにつながった。いつも通り、海ちゃんの元気な声がかえってくる。

「現在の電圧を教えてください。」

「・・・43Vだよ。」

昨日の夜、出張から戻ってきた池上さんと顔を見合わせる。ほとんどバッテリー切れだ。このままでは戻って来れなくなってしまう。進角の使用を停止して、45km/hまで巡航速度を落とす。

「三マテは?まだ視界にある?」

「うーん、ぎりぎり見えてるよ。」

「よし、そのまま見える範囲でついて行ければ勝ちだからね」

あとは、ゴールまでバッテリーが持つことを祈るだけだ・・・

15時19分、コースの向こうに三菱マテリアル・SUNチャレンジャーが姿を現してゴール。リミットはあと13分。それまでにガメラがゴールすれば勝ちだ。メンバー全員が、目を凝らしてコースの向こうを見つめる。


そして、15時23分。思ったよりもずっと早く、見慣れた車体が姿を現した・・・

(図)大会終了時のバッテリー残量

大会最終日ガメラの計測データ

Team Junk Yard 戦績
大会 成績 主なトピック
WSR 2002 フリークラス4位 総合8位(34周) フリークラスに転向。
ミツバDDモータ搭載、太陽電池520W化。
リッセル製リチウムイオン電池搭載。
未来賞受賞
WSR 2001 ハーフサイズ・ストッククラス 優勝、総合9位(35周) ミツバDDモータ搭載、日本ケミコン製キャパシタ搭載。
鉛バッテリ(古河FPX12440)新調。
昨年破損したホイールカバーを作成。
WSR 2000 ストッククラス・フレッシュ部門 優勝、総合14位(30周) WSR仕様に合わせるため、太陽電池を480Wに出力カット。
レース中、左右両ホイールカバーを破損。
技術賞受賞
WSC 1999 総合17位(7日間で完走) SHARP製太陽電池520W、昭和セル製アドオンパネル230W。
MPPT6チャンネル化、リチウムイオン電池搭載。
HONDA-DDW4030-改 搭載。
プライベータクラス 3位
グリーンハウス環境賞受賞
NTU best team spirits賞受賞
WSR 1999 ストッククラス・フレッシュ部門 優勝、総合16位(30周) MPPT搭載。
テスト走行で横転・キャノピー全損、アッパーカウル破損。
レース終了後、アッパーカウル・キャノピーを新造。
WSR 1998 ストッククラス・フレッシュ部門 3位、総合31位(18周)

【おまけ】
キラキラファイターその後。海の向こうで活躍中。

2002年10月6日 17:00 - あとがき


今年のWSRは10周年となる。僕が学生チームとしてこの大会に参加しはじめてから、かれこれ7年がたつ。10回連続出場の堺さんを筆頭に、9回、8回参加しているメンバーがゴロゴロしているTJYの中ではこれでも少ない方なのだが。

これほどまでに引きつけられる理由は、なんだろう?

ソーラーカーを、この大会を通して得られたものはとても大きい。ひとつは、もの創りに対する考え方。「レース」というある意味シビアな現実に対して、自分たちが創ったもので勝負していくこと。単に「創る」という過程を楽しむ段階から、結果を出すということを考え始めたとき、もの創りに対する視野が大きく広がる。様々な視点で物事を考え、それを形にしていくことを学べる場として、この大会は貴重な存在だと思う。

もうひとつは、様々な人たちとの交流。ひとつの思いだけで、年齢を職業を、距離を超えて毎年集まってくる人々、そこにできるチームを超えた交流の輪。もちろん、TJYというチームが結成できたのもこの大会があったからこそだと思う。

毎年、ここに来るたびにこのことを強く思うのだ。

だから、僕は毎年大潟村へやってくる。自分の中の、もの創りの原点に立ち返るために。

最後に、この素晴らしい大会を支えてきてくれた全ての人々に、ありがとう!

Team Junk Yard
小森 裕介
写真 : 若松竜太 / 合田正樹 / 小森裕介
計測データ : 堺一佐武
Back
Junkyard E-mail : webmaster@littleforest.jp
Copyright (c) 2002. Y.Komori, All rights reserved.