1999年10月17日 8:00 - ダーウィン、アトリウムホテル前ソーラーカーレースのスタートとというやつは、どうしてこんなに慌ただしいんだろう? わずかな仮眠の後、大急ぎでTDZを撤収して明け方のダーウィン郊外をぶっ飛ばし、そのままスタート地点へ移動。最終調整を行っているうちに、気がつくとスタート時間は目前に迫っていた。
レース開始のカウントダウンが始まろうかというところで、前日にやっと配線が終わったトラッカーが電流不足で起動しないというトラブルがあったものの、池上さんが冷静な対処で切り抜けて事なきを得る。さすがはいくつものレースで勝利してきたベテランである。
午前8時を30秒ほど回ったところで、ガメラは大陸縦断の旅を開始した。
秋田でのレースであればここで一息、ピットに戻るところだが、WSCではそうはいかない。ガメラがスタートゲートを通過するのを確認すると、僕は急いで近くに止めてある指令車に飛び乗った。スチュアートハイウエイを追いかけて、先行するガメラを探さなくてはいけない。 |
ガメラに追いつくまでの間、僕は数時間前に何とか使えるところまでこぎつけたExcelのワークシートを開いて、今日の予想を立てることにした。
TDZで完成したWSCバージョンのガメラは、外見は変わらないものの、この数ヶ月でいくつか改良が施されている。まず、夏のWSRでテスト走行中にひっくり返って破損したアッパーカウルを作り直し、パネルもシャープ製の新品に張り替えた。定格も480Wから少し増えて520Wになった。しかも、朝夕の充電時に使用できるアドオンパネルも200W分搭載している。
3台だったトラッカーは倍の6台に増え、バッテリーも鉛電池からからジャンク屋で手に入れたリチウムイオン電池に変更。小容量ながら軽量・コンパクトなモジュールに仕上がっている。傷ついて300W程度の出力しかでないパネルで戦った秋田のレースに比べれば、かなり豪華な仕様だ。
秋田のレースで計測したガメラの性能曲線を見てみよう。横軸が時速、縦軸が消費電力である。このグラフから時速何キロで走ったときにおよそ何ワットの電力を消費するかがわかる。このグラフが横に寝ていればいるほど「燃費」の良いマシンといえる。ガメラの場合、時速60kmで走っても消費電力は700W程度、つまり、ドライヤー1個分の電力でおつりがくることになる。
この性能曲線で見る限りガメラの性能はけっして悪いものではない。例えば今日、ピーク日射が定格の約8割、410W出るとして時速50kmで走行したらどうなるか見てみよう。
横軸は時刻、青い点線は予測バッテリー残量、赤い点線は予測消費電力、ピンクの点線は予測発電量だ。ワークシートには全行程の標高データが組み込まれていて、高低差も考慮した消費予測ができるようになっている。この予測を見ると、レース終了時刻の17時にはバッテリー残量が50%強と出ている。もう少し使ってもよいだろうか。では、時速55kmで走行するとどうだろう?
これでは初日でバッテリーをほとんど使い果たしてしまう。とりあえずは50km/hペースで走行、様子を見ながらペースアップという方向でよいだろう。このペースで走れば、今日の予想走行距離は425km。最初のメディアストップのキャサリンを少し超えて、マタランカ付近まで到達できそうだ。実はこのマタランカ、ジャングルの中に温泉がある場所で、現在ドライバーをしている堺さんお気に入りの場所なのだ。
1999年10月17日 14:18 - キャサリン (317km地点)
最初のメディアストップ、キャサリンに到着。ここまでの経過は順調。消費エネルギーがシミュレーションよりかなり少ない。カウルを作り直した効果が出ているのだろうか? ペースアップして55km/hで走ってきたが、バッテリー残量はまだ70%程度残している。これならこのペースで走っても初日終了時に4割は残せそうだ。
ガメラの搭載しているバッテリー容量は、レギュレーションで定められた上限の半分程度しかない。大幅な作り直しの後で、ぶっつけ本番に近いレースである。ここは様子見のために、少し多めにバッテリーを残しておく方針だ。
1999年10月17日 17:02 - マタランカの南、約15km (434km地点)
キャサリンを過ぎた後もガメラは順調に走行し、目標だったマタランカを15kmほど過ぎた地点でその日のレースを終えた。オブザーバに現在位置をマークしてもらい、ガメラを路肩に移動させる。休む暇もなく太陽電池を傾く太陽に当てて、充電を開始する。
・・・レースはまだ始まったばかりである。