1999 WorldSolarChallenge  ManagementReport
Day4, 1999/10/20  Ti Tree~Erldunda

1999年10月20日


メラの胃袋は、672本のリチウムイオン電池でできている。ジャンク屋で売られていた旧式携帯電話のバッテリーを利用したものだ。製作が遅れ、全体としては十分なテストが行えないままで本番をむかえてしまった。3000kmのレースをトラブルなしで持ちこたえられるのか、といった不安の声もある。

しかし、こいつが秋田のジャンク屋からここまできた道のりは、長く険しかった。1本1本の充放電チェックに始まり、手作業の半田付けによるアセンブリ、そして成田で機内持ち込みを拒否されて分割され、ダーウィンで再び元に戻された。僕は、ガメラの中で最も人手がかかっているのが、こいつではないかと思う。

もう少しで中間地点。ここまでの道のりに比べれば、残りはあとわずか。





今日は空には雲がかかり、ときおり小雨もぱらついている。残量の見積もり違いは大きなミスだったが、この天候ではうれしい誤算でもある。衛星写真を見ると南の方では雲がなくなっている。ここはあまりペースを落とさずに、さっさと雲を抜けるのが得策のようだ。午前8時5分、ファーストドライバーの海ちゃんは、45km/hペースでガメラをスタートさせた。




少し長くなるが、ここでマネージメントの方式について話をしよう。

まず、バッテリの容量は普通Ah(アンペア・アワー:電流の積)で表されるので、バッテリ残量を把握するには、電流を積算することが必要である。また、ソーラーカーの走行に必要な電力(W、ワット)は電流(A、アンペア)と電圧(V、ボルト)の積で表される。だから、必要とする電力が同じでもバッテリーの電圧によって流れる電流が変化する。同じ400Wの電力を使うときでも、100Vでは4A流れるし、50Vでは8A流れるのだ。

一般的なバッテリの場合は電圧は比較的安定しているため、電流の積算でも実用上は十分であるが、残量によって大きく電圧が変化するリチウムイオン電池を使用した場合は電流だけでは誤差が大きくなるため、積算電力で考える必要がある。

したがって、電圧が変化する状況でのバッテリー残量の予測は、エネルギーで考えた方がやりやすいのだ。TJYでは議論の結果、マネージメントは電力を積算した電力量(Wh、ワット・アワー)で考えることになっていた。

ガメラの計測システムは大きく2つの部分に分けられる。1つは電流、電圧の検出と増幅といったアナログ部分を担当するJunkシステム(下写真)。もう1つはJunkシステムの信号を受け取り、演算、記録、表示といったデジタル処理を行うYardシステムだ。

Junkシステムの電流積算計はAhをカウントし、Yardシステムは電流と電圧からコンピュータでエネルギーを計算する。主にマネージメントに使うのは、このYardのデータである。この3日間で両者のずれが徐々に大きくなり、無視できないまでになっていたのだ。計算した結果、電圧から求めた残量とJunkによる残量はほぼ一致する。つまり、マネージメントに使用していたYardのデータのほうがずれていたのだ。

しかし、前にも述べたとおり、マネージメントはエネルギーで考えた方がやりやすい。そこで、レース中は今まで通りYardのデータを元にマネージメントを行い、1日が終わったところでJunkのデータとバッテリー電圧から正確な残量を求め、補正することで話が決まったのだ。

さて、この間に海ちゃんがドライバーを終えて、TJY代表の鈴木さんにバトンタッチ。ガメラはいよいよ中間地点のアリス・スプリングスに到達する。


1999年10月20日 13:00 - アリス・スプリングス (1488km地点)


ついに中間地点のアリス・スプリングスに到着した。ここまで大きなトラブルがないのが不思議なくらいである。パンクさえ一度も起きていない。

ここで、バッテリー残量を見てみよう。Yardのデータによる計算では60%。前半は日射が弱い上に風が強く、消費が多かったが、ドライバー交代をしてからは日射が回復して風も弱くなったおかげで、充電状態で走行していた。ここアリス・スプリングスも快晴で、初夏の風が心地よい。

念のため、Junkによるデータとバッテリー電圧から残量を求めて調べてみる。こちらの方を担当しているのがJunkシステムを設計した立脇さんである。立脇さんの計算結果によると残量は70%。すでに10%のずれが生じている。とにかく、バッテリーに余裕があることは確かなので、午後は思い切りスピードを出してかまわないだろう。

(図)Day4 - 13:00




午後のコンディションは絶好調。日射も風も申し分ない。ずれを考慮しながらレース終了時のバッテリー残量を予測するして、少しずつペースアップを指示していく。

ガメラは、今までの鬱憤を晴らすかのようにスペシャルチューンされたDDWモータの音を響かせて、スチュアートハイウェイを南へとひた走る。

1999年10月20日 17:06 - エルダンダの北、約20km (1673km地点)


レース終了後、つかの間のひととき。今日は最後の最後で、充電用スタンドを積んだ母船(荷物車)が、買い出し(ビール)に時間をかけすぎてガメラに追いつけず、充電開始が遅れるというアクシデントがあった。

TJYでは、どんなに緊迫した状況でも笑いがたえることがない。これだけ立場や年齢の異なる人間が集まっているのにもかかわらず。そんなTJYの人間のつながりの強さが、ガメラをここまで走らせているのだと思う。

(図)Day4 - 17:00
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