1999 WorldSolarChallenge  ManagementReport
Day5, 1999/10/21  Erldunda~Coober Pedy

1999年10月21日 7:00


部で生い茂っていた低灌木も、このあたりまで来るとほとんどなくなっている。遮るもののなくなった地平線から、太陽がその莫大なエネルギーをまき散らす。

「オーストラリアでは、国内より2割は多く発電する。」という話を聞いたことがあるが、ここへ来てようやくそれを実感した。

他のソーラーカーの半分程度の発電量しかもたないガメラだが、そのバッテリー容量に比べれば多めであるともいえる。今朝の充電ではついに満充電に近づいてしまい、電池を保護するために、太陽電池に影を落とさざるを得なかった。ソーラーカーをはじめて4年になるが、こんなもったいないことをするのは始めてである。

多少風が強いものの、天気は快晴で行く手を遮る雲もない。今日は、とにかく突っ走るしかない。




今日のシミュレーションをしてみよう。バッテリー残量は約90%。日射はかなりの量が期待できる。風さえ強くなければ60km/hで走行してもバッテリーはもちそうだ。風を見ながら、ペースを調整することになりそうだ。

(図)Day5 - 8:00

窓の外を流れる木の揺れ方を見て風を確認し、徐々にペースアップを指示していく。程なく、ガメラはフルスロットルで走行するようになった。速度は60km/h以上、レース開始前には考えてもいなかった速度である。もっともこの天候では、前に抜かしたフルサイズソーラーカー達は、もっと速い速度で巡航しているに違いない。ガメラとの差は徐々に詰まっているのだろう。

ノザン・テリトリーとサウス・オーストラリアの州境をこえると風も弱くなり、日射は陰がくっきりと浮かぶほどになった。データを見ると、フルスロットルで走行してもほとんど太陽電池の発電でまかなえている。60km/h以上の走行でも、消費電力は600Wに満たないくらいだ。レース前の予想よりもかなり少ない消費で走っているようだ。




今日のレースも後半にさしかかったが、強い日射と少ない消費のおかげで60km/hという巡航速度にも関わらず、バッテリーはあまり減っていない。消費が少ないのは風が追い風気味になっているからなのだろうか。この段階でYardシステムによる残量が70%もあるということは、先日発覚したずれを考慮すると80%はあるだろう。ここはとにかく、ペースを維持してバッテリーを減らすしかない。へたにバッテリーを残すと、朝夕の充電でバッテリーが満タンになってしまう可能性があるからだ。

(図)Day5 - 12:30

ガメラの現在位置はGPSで把握できるのだが、これがおもしろいように正確にわかる。スタート地点でリセットしておくと、そこからの移動距離が表示されるので、これと詳細なコースデータと照らし合わせることで現在位置がわかるのだ。このおかげで、目標への到着時刻は5分以内の誤差で予測できる。さて、第5メディアストップ、キャドニー・ホームステッドが近づいてきたようだ。僕は無線のスイッチを入れてアナウンスを行う。

 「えー、指令車から各車へ。次のキャドニー・ホームステッドへは、あと20分ほどで到着予定です。」

すると、先導車が先行してメディアストップの位置を確認、無線でガメラを誘導する。先導車に乗っている次のドライバー、若松さんもスタンバイをはじめているはずだ。

1999年10月21日 13:56 - キャドニー・ホームステッド (2023km地点)


キャドニー・ホームステッドでガメラを待っていたのは、先導車だけではなかった。高原さん、合田さん、土井さん、竹内さん、赤須さんのTJY後発部隊である。予定では、アリス・スプリングスあたりで合流する予定だったのだが、500kmも先で合流することになってしまった。最初は先発隊の6人だけだったメンバーも今では15人をこえる大所帯になっている。あとは仕事の都合で出発が遅れているTJYの言い出しっぺ、東さんだけである。

メディアストップでは工具を使ったメンテナンスは禁止されているので、ガメラに対して行うことはあまりない。充電中のパネルに水をかけて冷却するくらいだろうか。どちらからかというと、人間と自動車の補給の方が大変である。水や食料の購入と、サポートカーの給油。それから、用を足しておくことも重要だ(TJYでは、より上品に「コンディション・コントロール」と呼ぶ)。メディアストップでの30分間は、こんな感じで過ぎてゆく。




キャドニー・ホームステッドを過ぎると、スチュアートハイウェイの両側に奇妙な白い山が目立つようになる。このあたりは世界最大のオパール産地。オパールを採掘したときに出た土の山なのだそうだ。ここにいると、ただのボタ山でさえも、赤い大地と青い空の間に白く輝いて美しく見える。

オパール採掘の中心地、クーバーペディを過ぎると、コース中もっとも砂漠らしい地帯に突入する。次のメディアストップ、グレンダンボまでの200km以上の間、コース上にはなにひとつ、ない。

1999年10月21日 17:04 - クーバーペディの南、約6km (2183km地点)


グレンダンボまでの空白地帯を前にして今日のレースは終了した。キャンプ地は360度見渡す限りの地平線。中間点のアリスを過ぎると、コースはなだらかに下って砂漠を突っ切り、大陸反対側の海に出る。そこはもう、南極海だ。

今日の走行距離は510kmに達した。平均時速にして60km/h。本当に予想もしていなかった速度だ。これだけ走っても夕方の充電終了時で50%以上のバッテリーを残している。ただ、心配事が一つだけ。最新の天気図によると、南極海で低気圧が発達している。その前線の先端が、この先のコースに近づいている。レースに影響がなければよいのだが・・・

(図)Day5 - 17:00
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