1999 WorldSolarChallenge  ManagementReport
Day6, 1999/10/22  Coober Pedy~Port Augusta

1999年10月22日 6:00


と青のコントラスト。赤茶けた土にまばらに草がへばりついている、どこまでも広がる単調な景色。一見、なにもない死の世界。だが、なにか、大きなものに包み込まれているような、不思議な暖かさを感じるのは、なぜだろうか? ここにいると、まるで故郷に帰ってきたかのように気が休まる。僕は、時間さえあればこの単調な景色をいつまでも眺めていたに違いない。

スチュアート探検隊が、北を目指して切り開いた恐るべき空白。100年後、僕らは同じ道をテクノロジーの産物を駆り、逆にたどっている。赤い大地の先には、どんな世界が広がっているのだろうか。




出発までの短い時間でSさんが入手してきた最新の天気図を見て、僕らは小躍りした。南にあった寒冷前線の北端は、夜中のうちにキャンプ地を抜けてしまったのだ。たしかに、昨日とは風向きが変わっている。風は相変わらず強いが、前線が遠ざかるにつれて収まるはず。バッテリー残量も朝夕の充電でほぼフル充電になってしまった。旅を開始してからもう6日目。うまくゆけば、今日中に最終メディアストップ、ポート・オーガスタまで行けるかもしれない。メンバーの間にも余裕の表情が生まれている。しかし、こういう時だからこそ、トラブルを起こさないように気をつけなければならない。

天気は良いが、強い向かい風のために、速度を上げるのは得策ではない。ファーストドライバーの海ちゃんには、若干抑えめの55km/h巡航をお願いすることにした。

マネージメントの立場からいえば、ソーラーカーのドライバーは指示された速度でマシンを走らせればそれでよい。だが、ドライバーにはもっと大きな役目がある。

 「ソーラーカーレースは、ドライバーが偉いんじゃない。ドライバーはみんなの夢を運ぶ、大切な役目を背負っているんだ。」

彼女は、みんなの夢がたくさん詰まったガメラを、大事に、大事に運んでいる。次の運び屋に無事にバトンタッチできるように。




レース中の指令車の中で、僕はワークシートの改良をはじめた。YardシステムとJunkシステムのデータの開きがあまりにも大きいため、今日からJunkシステムによるAh積算のデータもドライバーに連絡してもらい、リアルタイムで残量を比較できるようにするのだ。

(図)Day6 - 11:00

新しく追加された緑色のラインがJunkシステムのAh積算によるバッテリー残量である。この段階で、すでに10%の差が出ている。強風のせいか消費が多いのが気になるが、このペースでは、半分以上のバッテリーが残るようだ。風さえ収まれば、もっとペースを上げて良いだろう。

1999年10月22日 12:39 - グレンダンボ (2430km地点)


途中、ドライバーを鈴木さんに交代し、ペースアップをしつつ順調に距離を伸ばしてグレンダンボに到着。メディアストップのほとんどは、砂漠の中に宿とレストラン、バー、ガソリンスタンドなど、最小限必要な店舗がいくつか並んでいるだけである。ここは、いかにも西部劇に出てきそうな雰囲気の場所である。

現在順位をチェックすると16位。前方を行く15位のジョナサンとは45分ほどの差が開いている。このあたりまで来ると、チーム同士の差が開いてくるので、メディアストップでも他チームに出会うことはあまりない。しかし、どちらかといえば順位のことはあまり頭になかった。この小型車でフルサイズのソーラーカーに混ざって出場し、中位を維持しているだけで十分なのである。あとは、無事にゴールできさえすれば。




グレンダンボを出発したところで、バッテリー残量をチェックしておこう。

(図)Day6 - 13:15

今まで使用していたYardでは60%の残量になっているが、Junkシステムでは80%となっている。ずれはさらに開いてきている。シミュレーションでは17時時点の残量は20%になっているが、実際はもっと余裕があるはずである。ここまでずれが大きくなると、シミュレーションもあまりあてにならなくなってくる。バッテリーに余裕があるのでまだ大丈夫だが、いずれ、このずれの原因を究明する必要がある。





グレンダンボを過ぎると、コースには再び緑が戻ってくる。コースにも下り坂が多くなり、大陸の反対側に来ていることが実感できる。そして今日のハイライトは、2565km地点のバーナード・ヒル。先の見えない急な下り坂を、ドライバーの池上さんは93km/hという猛スピードで一気に下りきった。

16時を過ぎる頃になると、フルスロットルのはずのガメラの速度が少しずつ落ちてきた。どうやら、電圧の降下に伴ってモーターの最高回転数が落ちてきたようだ。モーターの最高回転数は電源電圧によって変化する。電圧変動の大きいリチウムイオン電池の場合、バッテリー残量が少なくなると電圧が下がってスピードが出せなくなるのである。そのため、リチウムイオン電池を使用する場合は、それも考慮に入れたギア比を設定しなければならない。今日の場合はバッテリー残量が切迫しているわけではないが、最後の一踏ん張りができないのは痛い。

1999年10月22日 17:11 - ポート・オーガスタの北、約45km (2670km地点)


結局、キャンプ地に予定時間内に到着することはできなかった。レギュレーションによると、レース終了は17時だが、17:10までのゴールなら伸ばした分だけ翌日のスタートを遅らせればよい。しかし、17:10分を過ぎた分は2倍してスタート時間を遅らせなければならない。本日のゴールは1分オーバーの17時11分。したがって、明日のスタートは8時12分となる。

午前中、風の影響でペースを遅らせたのと、後半の最高スピードが伸び悩んだのが原因で距離を伸ばすことはできず、目標のポート・オーガスタを45km先にしてのレース終了であった。しかし、アデレードまではたったの330km。トラブルさえ起きなければ明日中のゴールは確実だ。サウス・オーストラリアの力強い陽射しを受け、ガメラのバッテリーも順調に回復している。すでに、不安要素は何もない。あとはアデレードを目指すだけ。

(図)Day6 - 17:00




レース最後のキャンプ。サウス・オーストラリアに入ってから夜の気温はぐんと下がるようになった。僕は寒さにたまらなくなって、堺さんと枯れ木を集めて火をおこした。すぐにメンバーの輪ができる。明日にはゴールという開放感からか、みんなの様子はいつもよりはしゃぎ気味。夕食までのひととき、オーストラリア産のワインを片手に語り合う。

次の日、目覚めてからわかったのだが、一番はしゃいでいたのは僕だったらしい。空腹時に飲み過ぎたワインがのせいで、そのままダウン・・・1日の終わりに飲む一杯はいつもおいしかったが、砂漠の中でみんなと火を囲みながら飲んだワインは格別だった。それにしても、大好きなミートソースのパスタを食べ逃したのは残念である・・・

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