1999 WorldSolarChallenge  ManagementReport
Day2, 1999/10/18  Mataranka~RennerSprings

1999年10月18日 6:00


の空が明るくなってきた頃、誰からともなく目を覚まし、儀式の準備が始まる。きたるべき朝の光を受け止めるため、カウル台をセットする。真横から来る光を少しでも多く集めるため、カウル台の角度をぎりぎりまで傾ける。

ほどなくして、木々の間から朝がやってくる。日が昇るにつれて、みるみる上昇する電流計の数値。それを見ていると、なぜか自分まで元気になってくる。

レース期間中、スチュアートハイウエイの至る所で、儀式は毎朝繰り返される。




前日の晩、チームのWEB発信を担当しているSさんがインターネットで仕入れた衛星写真を見せてもらう。晴れているのは今いる場所だけで、行く手には低気圧の雲が広がっているようだ。

朝夕の充電後のバッテリー残量は約75%。だいぶ回復したので、当面問題はなさそうだ。心配の天候も今のところは問題ない。ファーストドライバーは、ガメラの設計者である自称「ハラグロ・エンジニア」、池上さん。55km/h~60km/hの高速巡航で順調にガメラをかっ飛ばす。

ソーラーカーレースは自動車レースのようにただ単に速く走れば良いわけではない。もちろん、早くゴールに到達した者が勝利者となることに変わりはないが、限られたエネルギーの中でそれを実現しようとすると、状況はとたんに複雑になる。

太陽という気まぐれな天の恵みでしか走れないソーラーカーレースでは、バッテリー残量の把握が鍵となる。ガソリン車のようにメーターで一目瞭然なら楽なのだが、電気という目に見えない燃料で走るソーラーカーは収入と支出の家計簿をつけることでしか残量を把握できない。そして、その家計簿をつけて収入と支出を予測し、速度指示を出すのがエネルギーマネージメントである。

・・・おっと、早くも2番目のメディアストップ、ダンマラが近づいてきた。

1999年10月18日 11:39 - ダンマラ (634km地点)


メディアストップは、ソーラーカーを報道陣や地元の人々へ公開するためのポイントだ。WSCではこのような場所が7ヶ所あり、それぞれ30分の停止が義務づけられている。この間にドライバー交代や、充電を行うことができる。ドライバー交代はどこで行ってもよいが、メディアストップで行えば時間のロスをなくせる。今日は、ここで池上さんから海ちゃん(木村聡海)に交代である。夏のWSRではSさんに「消費が多い」とぼやかれていたが、ダーウィンでのテスト走行では安定した走りを見せていた。

TJYでは6人のドライバーが3人づつのグループに分かれて1日交代でガメラに乗る。ドライバー交代は1日2回。1回はメディアストップで行い、もう1回は適当な場所で行う。

(図)ダンマラ到着時のバッテリー残量

ここで、ガメラのバッテリー残量を見てみよう。前にも何度か登場したが、上がガメラの家計簿にあたるグラフだ。ピンクは収入、赤は支出、青は残高と考えればいい。各色の点線がシミュレーションによる予測、実線は実際の計測値だ。支出を予測するには、ワークシートに現在の巡航速度を入力する。すると、その速度で走った場合にどの程度の支出になるかが計算されてグラフになる。収入の予想はもっとアバウトだ。日射量はサインカーブで近似できるので、ピークの発電量を適当に予想するだけだ。

ダンマラ到着時の残量は約55%。このペースでは本日のレース終了時点で、バッテリー残量は30%になる。ガメラのバッテリー容量は、レギュレーションで定められた半分にも満たない。そのため、太陽電池の発電量が少なくても天候がよければ朝夕の充電でかなり回復できるのだ。かといって「宵越しの銭は持たねぇ」とばかりに、1日の走行でバッテリーを使い切るわけにもいかない。天候の悪化が予想される場合はなおさらである。朝の天気予報を考える限り、今日は少し多めに残しておいた方が良さそうである。




午後になり、だんだんと行く手に雲が広がってくる。衛星写真で見た雲の下に入ったようだ。ガメラの指示速度は午前中より少し落として50km/hとしている。

日射は落ちる一方である。今日のレースも終盤となった午後4頃、行く手には次々と先行していたソーラーカーが現れる。路肩に止まっているチーム、早々と今日のレースを終了し、キャンプに入っているチーム。どうやら、先頭集団は早くから雲に入ってしまったため、予想以上にバッテリーを消費してしまったようだ。まだバッテリーに余裕のあるガメラは、淡々と走行を重ねてゆく。

1999年10月18日 17:05 - レナー・スプリングスの南、約50km (878km地点)


結局、ガメラは最後の1時間半の間に7台のソーラーカーをごぼう抜きして、今日のレースを終えた。このあたりまで来ると、生い茂っていた灌木も少なくなり、いよいよ砂漠らしい景色となる。しかし、砂漠の太陽は薄雲の向こうに弱々しく光っているだけある。発電量を示す電流計の数値はほとんどゼロ。そしてバッテリー残量は約30%。この天気が続くと明日は厳しいレースとなるだろう。

(図)Day2 - 17:00
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